大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和55年(ネ)1482号 判決

控訴人

木原秀幸

右訴訟代理人

羽尾良三

被控訴人

天理教神加分教会

右代表者

相江真喜子

右訴訟代理人

浦井勲

被控訴人補助参加人

住友不動産株式会社

右代表者

山本弘

右訴訟代理人

渡部紋衛

大嶋匡

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

控訴人は「1原判決を取消す。2神戸地方裁判所が同庁昭和五三年(ヨ)第八一一号不動産仮処分申請事件について昭和五四年一月三〇日なした仮処分決定中控訴人と被控訴人との間にかかる部分を認可する。3訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」旨の判決を求め、被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

第二  当事者の主張

一  控訴人の申請の理由

1  控訴人はその肩書地の土地を、被控訴人は原判決別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)をそれぞれ所有している。右各土地はいずれも補助参加人が開発分譲した住宅地で、神戸市北区泉台五丁目にあり、建築基準法第四章及び神戸市条例(昭和四七年条例第一六号)に基づく「鈴蘭泉台西地区建築協定(以下本件協定という)の建築協定区域内にある。従つて控訴人及び被控訴人は本件協定の効力を受ける者(以下協定者という)として相互に本件協定を遵守する義務を負うところ、本件協定には別紙鈴蘭泉台西地区建築協定(抄)のような条項が含まれている。

2  然るところ昭和五四年一月ころ、本件協定の効力を受ける者(以下協定者という)の有志により運営委員会設立発起人会が作られ、同年三月一一日開催の協定者の総会において本件協定第一〇条所定の運営委員が選出され、その運営委員によつて構成された運営委員会において控訴人は本件協定第一一条所定の運営委員長に選出された。

3  ところで被控訴人はその所有する本件土地上に天理教神加分教会の建物(以下本件建物という)を建築すべくその建築工事を申請外殖産住宅相互株式会社に請負わせ、現に申請外株式会社矢須野工務店がその工事を行なつている。

4  本件協定第六条によれば本件協定区域内に建築できる建造物の用途は「住居専用もしくは第一〇条規定の委員会が住環境を阻害しないと認める店舗(医院)併用住宅」に限られているところ、被控訴人が建築中の本件建物は教会であるから、右建物の建築は本件協定に違反し建築することの許されないものである。

本件建築協定第六条の解釈についての控訴人の主張は原判決第四丁裏一〇行目から同第六丁裏三行目までのとおりであるからこれを引用する。

5  本件協定第八条、第九条によれば、第六条の規定に違反する協定者があつた場合、運営委員長はその工事施行の停止及び違反行為を是正するための措置の強制執行又は当該協定者の費用をもつて第三者にこれを行なわせることを管轄裁判所に請求する権限を有するものである。

6  被控訴人は、控訴人等の工事中止の請求にもかかわらず本件建物の建築工事を強行しているものであり、建物が完成してから本件協定上の権利の行使は著しく困難になる。

7  控訴人外一四名の協定者は被控訴人、殖産住宅相互株式会社、株式会社矢須野工務店を相手方として神戸地方裁判所に対し本件建物の建築工事の続行禁止を求める仮処分を申請し、同裁判所は右申請に基づき控訴人ら債権者に共同して、被控訴人に対し金二〇〇万円、殖産住宅相互株式会社に対し五〇万円、株式会社矢須野工務店に対し五〇万円の保証を立てさせたうえ、昭和五四年一月三〇日「債務者らは別紙物件目録記載の土地(本件土地と同じである)上における天理教神加分教会の建物の建築工事を続行してはならない。申請費用は債務者らの負担とする。」との主文の本件仮処分決定をした。

8  本件紛争発生当時は本件協定の運営委員長は存在しなかつたので、控訴人は他の一四名の協定者とともに個々の協定者として本件仮処分申請をしたものであるが、その後控訴人が前記のとおり運営委員長に就任したのであるから、控訴人から被控訴人に対する前記仮処分決定の認可を求める。

二  申請の理由に対する被控訴人、補助参加人の主張

1  申請の理由1の事実中被控訴人が本件土地を所有していること、本件土地が本件協定の協定区域内にあること、被控訴人が協定者として本件協定を遵守すべき義務を有することは認めるが、控訴人が肩書地の土地を所有していることは知らない。

2  申請の理由2の事実中昭和五四年三月一一日に運営委員が選出され、控訴人が運営委員長に選任されたことは認める。但し右選出の手続が適法かつ民主的なものであつたことを争う。

3  申請の理由3の事実は認める。

4  申請の理由4の事実本件協定第六条に本件協定区域内に建築できる建造物の用途について控訴人主張のような趣旨の規定があることは認めるが、その解釈及び被控訴人が建築中の本件建物が右規定によつて建築を許されないものであることは否認する。

本件建築協定制定の経緯、右条項の解釈についての被控訴人の主張は原判決第九丁裏末行から同第一四丁表一〇行目までのとおりであるからこれを引用する。

5  申請の理由6の事実は否認する。

本件紛争の経過は原判決第一六丁裏一一行目から同第一七丁裏七行目までのとおりであるからこれを引用する。

6  申請の理由7の事実は認める。

7  申請の理由8の主張は争う。

控訴人は当初一協定者として本件仮処分申請をしたものであるから、その後控訴人が運営委員長に選任されたからといつて、一協定者としての仮処分申請が運営委員長による申請に変るものではない。本件協定では出訴権を運営委員長の専権としてのであるから、仮処分申請書が運営委員長の地位にあるか否かは当事者適格の問題である。そして本件のような運営委員長としての出訴権については、商法第二六七条所定の株主の代表訴訟と同様に訴提起時から終結時まで所定の当事者適格を具備することが不可欠であり、これを欠くときは訴を却下すべきものと解すべきである。

そして控訴人には後記のとおり被保全権利がなく、また本件仮処分には仮処分取消の理由もあるので、本件仮処分決定を取消し、本件仮処分の却下を求める。

8  本件協定は昭和五〇年三月一八日神戸市長の認可を得たもので、当時補助参加人は原始協定者の中から運営委員長に選任された。

本件協定は新規に土地を開発分譲するに当つて給水量の制限の目的で行政指導に基づき締結されたものであり、協定区域内の各土地に既に住民がいてその意思で協定を締結する場合と異なり、いわば建築基準法第七六条の三所定のいわゆる一人協定的な性格の協定であつた。従つて本件協定の運営は法が本来予定している建築協定と異なるのは当然である。協定において運営委員長等の任期が一年と定められている場合でも、最初の運営委員や委員長の任期は、分譲購入者が相当の数となり住民全体の自治組織が成熟し住民全体による運営が可能となる時点まで継続することが暗黙裡に予定されているのである。本件協定の場合でも、当初運営委員長に選任された補助参加人の任期は住民の手によつて運営委員会を構成することが可能となるまで継続するものと解すべきところ、右任期中の昭和五三年八月被控訴人から本件建物建築の承認を求められたので、補助参加人は運営委員会にはかり本件建物が住環境を阻害しないものと認め同年八月一九日建築を承認したものである。

仮に補助参加人の運営委員長の任期が当然に継続しているとの主張が認められないとしても、補助参加人は本件協定発効の日から一年経過毎に当時の協定者によつて黙示的に再任されたものとみるべきであり、そうでないとしても一年の任期満了後も住民本位の運営が可能となる時まで運営委員長の権限を行使できるものと解釈するのが合理的である。

仮に以上の主張が認められないとしても、本件のような事情のもとでは民法の委任の規定の類推適用により受任者である補助参加人は後任の運営委員が選任されるまで受任事務につき善処する義務があり、補助参加人は右義務に基づいて前記承認を与えたものである。

被控訴人は右のとおり運営委員長の承認を得て本件建物の建築に着手したものであるから、その後運営委員会の構成が変つたからと言つて右承認の効果をくつがえすことはできない。

補助参加人は運営委員長としての権限を有しており、これに基づいて被控訴人に承認を与えた事情は原判決第一八丁表二行目から同第二〇丁表九行目までのとおりであるからこれを引用する。

9  なお被控訴人は本件仮処分決定により異常に莫大な損害を蒙るのに対し、控訴人には本件建物の工事が続行されても特段の損害が発生する可能性はない。したがつて本件仮処分決定はこれを取消すべき特別の事情があるから、本件仮処分決定は取消されるべきである。

右特別事情についての主張は原判決第二〇丁表一一行目から同二一丁表末行までのとおりであるからこれを引用する。

三  被控訴人、補助参加人の主張に対する控訴人の反論

1  右二8の事実中補助参加人が原始協定者の中から運営委員長に選任された事実は否認する。但し補助参加人が本件協定の発効当時最初の運営委員の一人に就任したことは認める。もつとも運営委員の任期は一年であり、被控訴人から本件建物建築の承認を求められた当時正当に選任された運営委員はいなかつた。運営委員について民法の委任の規定(六五四条)が準用される根拠はないし、仮に準用されるとしても本件の場合急迫の事情は存しない。

被控訴人が補助参加人の従業員稲村光彦から本件建物の建築の承認を受けた事実は認めるが、右承認は本件協定の運営委員長としての承認ではない。

以上の点についての控訴人の主張の詳細は原判決第二一丁裏三行目から同第二三丁表一〇行目までのとおりであるからこれを引用する。

2  右二9の主張は否認する。

第三  疎明関係〈省略〉

理由

一被控訴人が本件土地を所有していること、本件土地が本件協定の協定区域内にあること、被控訴人が協定者として本件協定を遵守すべき義務を負うこと、及び申請の理由3、7の事実は当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば控訴人がその肩書地の土地を所有していること、本件土地及び控訴人所有地は補助参加人が開発分譲した住宅地で、控訴人所有地も本件協定の協定地区域内にあること、本件協定の主要な条項が別紙鈴蘭泉台西地区建築協定(抄)のとおりであること、以上の事実が認められる。

二昭和五四年三月一一日本件協定の運営委員が選出され、控訴人が運営委員長に選任されたことは当事者間に争いがなく、その経過についての認定は原判決第二七丁裏九行目から同第二九丁表二行目までのとおりであるからこれを引用する。

そして〈証拠〉によれば、昭和五五年三月、昭和五四年度運営委員の任期満了に伴ない本件協定区域内の各ブロックで昭和五五年度の運営委員が選任され、同年四月一三日開催の昭和五五年度第一回運営委員会において控訴人が運営委員長に再任されたこと、同年七月二五日本件原判決が言渡されたが、本件協定運営委員会は同年八月三日これに対する今後の対策を審議した結果控訴することが決議され、運営委員長である控訴人が本件控訴を申立てたこと、が認められこれに反する証拠はない。

被控訴人及び補助参加人は控訴人が運営委員長に選出された手続が適法かつ民主的なものであつたことを争うが前記認定の事実によれば、運営委員の選出手続を定めた鈴蘭泉台西地区建築協定運営委員会規則は当時の協定者総数三八一人の内委任状提出者を含めて二七二人が出席した協定者の総会で議決されたものであるが、右総会の前に鈴蘭泉台西地区建築協定者総会発起人一同の名義で協定者全員に協定者総会開催の通知が送付されており、しかも〈証拠〉によれば右通知には参考資料として右規則の案が添付されていてその案が極く一部の修正を経て議決されたものであることが認められたから、右規則制定の手続が不適法であつたり不公正であつたということはできず、制定された規則の内容やこれに基づいて行なわれた昭和五四年度及び昭和五五年度の運営委員ならびに運営委員長の選任手続にも本件協定に反する点や公正でない点があることを認めるに足りる証拠はない。

本件協定第八条、第九条によれば、本件協定第六条の規定に違反する協定者があつた場合その違反を是正するために必要な措置の強制履行を求めて裁判所へ出訴することができるのは運営委員長のみであつて、各協定者個人は本件協定第六条違反を理由に違反行為の差止めを求める訴を提起する権限を有しないと解すべきである(その理由は原判決第二六丁裏五行目から同第二七丁裏三行目の「認められない」までと同一である)から、申請当時運営委員長でなかつた控訴人の本件仮処分申請は当事者適格を欠き不適法であつたといわざるを得ない。しかし現時点においては控訴人は運営委員長の地位にあり、運営委員会の決議に基づき本件仮処分申請を維持していることは前示のとおりであるから、本件仮処分申請は当事者適格を具備するに至つた者による申請として適法である。

三本件協定の制定のいきさつ、補助参加人が運営委員長に就任しその職務を行なつて来た経過は原判決第三一丁表七行目から同第三六丁表五行目までのとおり(但し同第三三丁表一二行目の「協定者」とあるのを「協定」と訂正する)、であり、また補助参加人が運営委員長として被控訴人の本件建物の建築を承認したいきさつは、原判決第三八丁表四行目の「同相江道弘」とある次に「(原審及び当審)」を、同五行目の「疎甲第六号証」とある次に「疎乙第一三号証」を同第三八丁表七行目の「(1)」の次に「昭和五三年八月初旬頃被控訴人が神戸市に対し本件建物の建築確認申請をしたところ、補助参加人の稲村に連絡して本件協定運営委員会の承認を得て来るようにとの指導を受けたので、これに従つて」を同第三八丁表九行目の「名義で、」とある次に「参加人内部で運営委員会の事務担当の責任者の地位にあつた」を、同第三八丁裏九行目の次に「(4) 本件建物は右設計図の通り右念書の趣旨に沿つて建築されている。」を各付加するほか、同第三八丁表四行目から同三九丁表二行目までのとおりであるから、それぞれこれを引用する。

右事実によれば、本件協定は新規に宅地を造成分譲するにあたつて造成分譲業者である補助参加人が、水の需要量を抑制しあわせて住宅環境を維持するために開発前に建築協定を制定させるという神戸市の行政指導に従つて原所有者らとともに締結したものであつて、造成宅地の売主である補助参加人らにとつては開発許可を受けるためのやむを得ない措置であつたのであり、宅地の販売が進み住民の数がある程度増えるまでの間は、本件協定区域内の面積の八〇パーセントを越える土地を所有して宅地造成販売の中心であつた補助参加人としては神戸市の行政指導もあつて本件協定認可の当初から運営委員長に選任され運営委員会の業務を行なわざるを得ず、現にこれを行なつていたものである。

しかしながら、そのことから運営委員の任期を一年間と定めた本件協定第一〇条第三項の規定を無視して当初の運営委員の任期が住民による本件協定の運営が可能になる時まで当然に継続するとみるのは相当でない。また当初補助参加人を運営委員長に選任した原始協定者らはともかく、その後協定区域内の土地の所有者等となつた協定者のすべてが一年の任期満了毎に補助参加人を運営委員長として黙示的に選任していたものと推認すべき事情は認められない。

ところで、建築基準法に基づく建築協定は、協定区域内の土地の所有者等がその土地上の建築物の敷地、位置、構造、用途、形態、意匠又は建築設備に関し建築基準法その他の法令の規制よりも厳しい制約を定めることに合意し、法令の規制以上の一定範囲の作為又は不作為義務を相互に負担しあうことにより、協定区域の住宅地としての環境又は商店街としての利便を高度に維持増進する等建築物の利用を増進し、かつ土地の環境を改善するなどの目的を達成しようというものであつて、建築協定を締結することができる旨の条例が制定されている市町村の区域でのみ締結することができるものであり、その協定が効力を生ずるためには公告、聴聞等の手続を経て特定行政庁の認可を得なければならないとともに認可の公告のあつた日以後に協定区域内の土地の所有権者等になつた者に対しても効力が及ぶものであることを考えると、かかる協定に本件協定のようにその運営に関する事項を処理するための協定者の互選による運営委員からなる運営委員会がおかれ、運営委員の中から選任された運営委員長が協定運営の業務を総理し委員会を代表することが協定自体に定められている場合、各協定者と運営委員、運営委員長との関係は委任関係に準ずるものと見ることができるから、運営委員、運営委員長の任期満了後後任者の選任されるまでの間の事務処理については民法第六五四条が準用されると解するのが相当である。

そして前記認定のとおり本件協定締結の当初行政指導によつて運営委員長に就任し、一年間の任期経過後も後任が選任されず、協定区域内の分譲地を買受けて住民となつた協定者に運営委員会の引継ぎを打診しても色よい返事がないまま経過するうちに、着工予定を目近にして被控訴人から本件建物建築工事について本件協定第六条第二項所定の承認を求められた補助参加人が、これについて審査の上承認を与えることは急迫の事情ある場合に必要な処分をなすことにあたると解するのが相当であるから、補助参加人は被控訴人からの承認申請に対し審査の上承認する権限を有していたものというべきである。

四ところで、本件協定第六条は、「前条に定める協定区域内の建築物の用途・構造は次の各号の基準によらなければならない。」とし、その第(1)号に「一区画一戸建とし住居専用もしくは第一〇条規定の委員会が住環境を阻害しないと認める店舗(医院)併用住宅(延面積の二分の一以上を居住の用に供するもの)」と定めているのであるから、教会併用住宅である本件建物は右規定にいう「店舗(医院)併用住宅」に該当しなければ運営委員会が住環境を阻害しないと認めるか認めないかを問題にするまでもなく本件協定区域内に建築することは許されないのであり、右規定の「店舗(医院)併用住宅」は教会併用住宅を含むものと解してはじめて運営委員会による住環境阻害の有無の認定が問題となるのである。控訴人は右「店舗(医院)併用住宅」には教会併用住宅を含まないものと解釈すべきであると主張するのに対し、被控訴人は右店舗(医院)は例示にすぎず第一種住居専用地域内に単独であるいは住居併用で建築することができるすべての用途の併用住宅を含むものと解釈すべきであると主張するので検討する。

1  建築基準法に基づく建築協定は、前記のとおり協定者の合意を基礎とするものではあるが、それが効力を生ずるためには建築協定書を特定行政庁に提出し、公告、縦覧、聴聞等の手続を経て特定行政庁の認可を得、その公告がなされることを要し、認可の公告のあつた日以後に協定区域内の土地の所有者等となつた者に対しても、その者が建築協定のあることを知つていたと否とを問わず、当然に効力が及ぶものである。右のような建築協定の性質に照らせば、建築協定の解釈にあたつては通常の契約の解釈以上にその文言を重視する必要があるのであり、たとえ協定締結の際原始協定者の真意が一致していたとしても、その内容が協定の文言より規制を加重する方向であれ軽減する方向であれ協定の文言とかけはなれている場合には、それが原始協定者の真意であることの故をもつて協定の正当な内容であると解するのは相当でない。けだし、文言とかけはなれた原協定者の真意が協定の正当な内容であるとすると、特定行政庁の審査を経ない協定が効力を有する結果を生じ、認可の公告以後に協定区域内の土地の所有者等となつた者の期待が害されることになるからである。

2  そこで本件協定第六条第一項第(1)の解釈について検討するに、言葉の通常の用法において店舗、医院という言葉が教会を含むもの、あるいは教会と近似性を有するものとが解することが困難であることはいうまでもない。又建築基準法第四八条第一項によれば、第一種住居専用地域内に建築できる建築物は、特定行政庁が特別に許可した場合を除き同法別表第二(い)項に掲げられた建築物に限られているが、右(い)項には、一 住宅、二 住宅で事務所、店舗その他これらに類する用途を兼ねるもののうち政令で定めるもの、三 共同住宅、寄宿舎又は下宿、四 学校(括弧内略)、図書館その他これらに類するもの、五 神社、寺院、教会その他これらに類するもの、六 養老院、託児所その他これらに類するもの、七 公衆浴場(括弧内略)、八 診療所、九 巡査派出所、公衆電話所その他これらに類する政令で定める公益上必要な建築物、十 前各号の建築物に附属するもの(括弧内略)と建築可能な建物を一号から一〇号に分類して掲げられているところ、本件協定第六条第一項第(1)にいう「店舗」とは右別表第二(い)項二号戸定の建築物を指し、同じく「医院」とは同表第二(い)項八号所定の診療所に含まれるものと解されるが、同表第二(い)項五号所定の教会が本件協定第六条第一項第(1)の店舗あるいは医院に含まれるとは解しにくい。

そうすると、先に認定した原始協定者の同条項についての見解とは異り本件協定第六条第(1)所定の「店舗(医院)併用住宅」には本件建物のような教会用住宅を含まないものと解するのが相当でありこれに反する被控訴人及び補助参加人の主張は採用できない。

五右に判断したところによれば、被控訴人の建築中の本件建物は本件協定第六条に違反するものであり、協定運営委員長である控訴人は被控訴人に対し工事施工の停止と違反行為の是正を請求する権利を有するものと一応認められるかのようである。

しかしながら、本件協定第六条の店舗(医院)の意義を右のように解するのが妥当であるとはいうもの、これと異り被控訴人主張のような趣旨に解する余地も全くないわけではなく、事実さきに認定したように原始協定者等は右文言を被控訴人主張のような趣旨に解して本件協定に合意し、その後運営委員長として本件協定の運営に当つてきた補助参加人も右文言を被控訴人主張のような意味に解して何らこれを疑わずその事務を処理し、被控訴人の本件建物建築許可申請に対し承認を与えたものであり、他方被控訴人も補助参加人の右解釈並びに本件許可の正当性につき何ら疑うことなく本件工事に着手したものと認められるから、補助参加人がその適法な権限に基づいて被控訴人に与えた承認をもつて無効のものということはできず、その後に至つて本件協定の運営委員会の見解が変つた(後の見解の方が妥当であるとしても)ことを理由にさきに与えた承認の効果を覆し被控訴人がすでに着手を始めた本件建築工事の禁止等を求めることは、被控訴人の信頼を裏切り同人に予期しない重大な損害を与えるもので、信義誠実の原則に反し、許されないものというべきである。

六以上のとおりであるから、控訴人の本件仮処分申請は、結局その被保全権利の疎明を欠き、保証をもつて疎明に代えることも相当でないから、その余の点について検討するまでもなく失当であり、これを認容した仮処分決定を取消し仮処分申請を却下した原判決は正当である。よつて本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(谷野英俊 丹宗朝子 西田美昭)

鈴蘭泉台西地区建築協定(抄)

(目的)

第一条 この協定は建築基準法(昭和二五年法律二〇一号)及び神戸市建築協定条例(昭和四七年四月条例第一六号)に基づき、本協定区域内に於ける建築物の用途・構造に関する基準について協定し、住宅地としての環境を高度に維持増進することを目的とする。

(名称)

第二条 この協定は鈴蘭泉台西地区建築協定と称する。

(協定の締結)

第三条 省略

(協定の変更及び廃止)

第四条 この協定の協定区域、建築物に関する基準、有効期間及び協定違反に対する措置を変更しようとする場合は、協定者全員の合意によらなければならない。

2 この協定を廃止しようとする場合は、協定者の過半数の合意を得なければならない。

(協定区域)

第五条 この協定の区域は次のとおりとする。

神戸市北区泉台四丁目三番一号他の土地

但し、住友鈴蘭泉台分譲地内の仮番一番から四九二番までの四九二区画(別紙区域図の区画及び番号の通り)……

但し別紙区域図省略

(建築物の制限)

第六条 前条に定める協定区域内の建築物の用途。構造は次の各号の基準によらなければならない。

(1)、一区画一戸建とし住居専用もしくは第一〇条規定の委員会が住環境を阻害しないと認める店舗(医院)併用住宅(延面積の二分の一以上を居住の用に供するもの)

(2)、建築物の階数は地階を除く二階以下(高さは一〇メートル以下)とする。

(有効期間)

第七条 省略

(違反者の措置)

第八条 第六条の規定に違反した者のあつた場合、第一〇条に定める協定運営委員会の委員長は同委員会の決定に基づき当該権利者に対して工事施行の停止を請求し、かつ文言を以つて相当の猶予期間内に違反行為を是正する為の必要な措置を請求するものとする。

2 前項の請求を受けた当該権利者は、遅滞なくこれに従わなければならない。

(裁判所への出訴)

第九条 前条第一項に規定する請求があつた場合で当該権利者がその請求に従わないときは、委員長はその強制執行又は当該権利者の費用をもって第三者にこれを行わせることを管轄裁判所に請求するものとする。

2 前項の出訴手続等に関する費用は当該権利者の負担とする。

(委員会)

第一〇条 この協定の運営に関する事項を処理するため協定運営委員会(以下「委員会」という)を次の各号により設置する。

①委員会は委員若干名をもつて組織する。

②委員は協定者の互選により選出する。

③委員の任期は一年とし、補欠委員の任期は前任者の残存期間とする。

④委員は再任されることができ、自治会の役員と兼務することができる。

(役員)

第一一条 委員会に次の役員を置く。

委員長   一名

副委員長   二名

会計   一名

2 前項役員は委員の互選により選出し、協定運営のための業務を遂行する。

3 委員長は協定運営の業務を総理し、委員会を代表する。

4 副委員長は委員長に事故あるときその職務を代理する。

5 会計は委員会の経理に関する業務を処理する。

(補則)

第一二条 前二条に規定するほか委員会の組織・運営・議決の方法等に関して必要な事項は別に定める。

(附則)

第一三条 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例